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東京地方裁判所 平成10年(ワ)242号 判決

原告

生田知子

右訴訟代理人弁護士

武中洋司

被告

株式会社エイ・ケイ・アンドカンパニー

右代表者代表取締役

小早川明子

右訴訟代理人弁護士

河東宗文

松木信行

木村政綱

中原俊明

亀井英樹

主文

一  被告は、原告に対し、一六二万円を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文と同旨。

第二事案の概要

本件は、被告から解雇(懲戒解雇)を受けた原告が、解雇は理由がなく無効であると主張して、被告に対し、解雇以降の六か月分の給与の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  被告(旧商号 明晋)は、目的を家具、インテリア用品の販売、輸入等、資本金を一〇〇〇万円、本店所在地を東京都品川区、代表取締役を小早川明子(被告代表者)として平成六年四月設立された株式会社である。

2  原告は、平成八年一月被告に雇用され、当初は東京都内の被告営業所に勤務していたが、被告が美術館事業を経営するため、大分県大分郡湯布院町(以下「湯布院町」という。)に由布院ステント(ママ)グラスミユージアム(以下「由布院美術館」という。)を設置することとなったことから、同年九月湯布院町に転勤を命じられてそのころ同町に赴任し、同年一〇月由布院美術館の開業に伴い、同美術館の館長代理に配置された。由布院美術館の館長には宮本知恵子(以下「宮本」又は「宮本館長」という。)が配置されたが、同人は当時被告代表者の夫であった阿部哲朗の妹である。

3  被告は、平成九年一月七日原告に対し懲戒解雇の意思表示をした(以下「本件解雇」という。)。

4  被告の就業規則には、次の定めがある(〈証拠略〉)。

三七条(解雇)

従業員が次の各号の一つに該当する場合は、三〇日前に予告するか又は労働基準法に規定する予告手当(平均賃金の三〇日分)を支払って解雇する。ただし、試用期間中のもので一四日以内に解雇する場合は、即刻解雇とする。

三号 勤務成績が不良で就業に適しないと認められるとき。

四三条(懲戒の方法)

懲戒の方法は、次の四種類とする。

けん責 始末書を提出させ、将来を戒める。

減給 けん責の上、期間を定め、賃金を減給する。

出勤停止 けん責の上、期間を限って出勤を停止する。ただし、この期間中は欠勤扱いとし、賃金は支払わない。

懲戒解雇 予告期間を設けないで即時解雇し、退職金は支払わない。

四四条(懲戒解雇基準)

従業員が次の各号の一つに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、情状によっては、その他の懲戒にとどめることがある。

三号 他の従業員の業務を妨げる行為のあったとき、又は職場の秩序を乱すような行為をしたとき。

四号 業務上の指示命令に反抗し、又は越権専断な行為をしたとき。

五号 業務命令を拒んだことが、勤務に妨害があったとき。

一二号 その他前各号に準ずる行為があったとき。

5  原告は、本件解雇前、被告から月額二七万円の給与の支払を受けていたが、本件解雇後である平成九年一月分以降、給与の支払を受けていない。

二  争点

本件解雇の適法性

三  双方の主張

1  被告の主張の骨子

(一) 被(ママ)告には、次のような懲戒解雇事由があり、特に(2)の事実は重大であるので、審議の上、就業規則四四条に基づき、原告を懲戒解雇に付したものであるから、本件解雇は適法である。

(1) 原告は、由布院美術館の館長代理という要職にあったのに、被告の業務のために来日した英国人や現地の有力者に対し、「湯布院での仕事には魅力を感じていない、ロンドン駐在になるか、東京に戻りたい。」、「こんなところに飛ばされた」などと公言し、そのため被告の業務に非常な障害が生じた(以下「被告主張の懲戒事由(1)」という。)。

右事実は、就業規則四四条三号、一二号に該当する。

(2) 被告代表者と義理の姉妹の関係にある宮本は、由布院美術館に対する多額の資金提供者であったが、原告は、被告代表者が被告の顧問である大竹一生(以下「大竹」という。)と男女の関係にある旨宮本に告げ、被告代表者を中傷した。そのため、被告代表者と宮本のパートナー関係にひびが入ったばかりか、被告代表者の家庭生活にも危機が生じた(以下「被告主張の懲戒事由(2)」という。)。

右事実は、就業規則四四条三号に該当する。

(3) 原告は、由布院美術館の従業員であった松井裕子(以下「松井」という。)を中傷し、職場の規律を乱した(以下「被告主張の懲戒事由(3)」という。)。

右事実は、就業規則四四条三号に該当する。

(4) 平成八年九月一九日、当日は由布院美術館にパイプオルガンが搬入され、かつ、消防の検査が行われることが予定されていたのに、原告が無断で神戸市の実家に帰って職場を放棄したため、現場が大混乱に陥っただけでなく、被告の信用が失われた(以下「被告主張の懲戒事由(4)」という。)。

右事実は、就業規則四四条四号、五号に該当する。

(5) このほか、由布院美術館に勤務中の原告には、次のような事実(以下「被告主張の懲戒事由(5)」という。)があったが、これらは、就業規則四四条五号、一二号に該当する。〈1〉 ほとんど一日中事務所の中にいて、ロンドンなどへの無用の長電話を繰り返し、館長代理として来客を迎えたり、館内を巡回するようなことをしなかった。〈2〉 休憩時間が定められていたのに、それ以外の好きな時に休憩を取ることを繰り返していた。〈3〉 宮本館長が受けた来客を、同館長に何ら相談することなく、定休日だからという理由で断ってしまった。〈4〉 原告の国内の友人から、由布院美術館の売店用に高価な装身具を多数購入し、売店でこれらの装身具について英国製という表示をした。〈5〉 由布院美術館の開業以来、被告に対して一度も業務報告をしなかった。〈6〉 被告が顧問税理士に原告からの経理の引継ぎの日程を都合させたにもかかわらず、原告が自分の私用を優先させたため、経理の引継ぎができなかった。〈7〉 館長代理としての自覚がなく、仕事をせず、職場の規律を乱した。

(二) 仮に、以上の事実が就業規則四四条所定の懲戒解雇事由に該当しないとしても、これらの事実によれば、原告は勤務成績が不良で就業に適しないと認められるから、就業規則三七条三号に該当するので、本件解雇は就業規則三七条に基づく普通解雇として有効である。

2  原告の主張の骨子

(一)(ママ) 被告主張の懲戒事由(1)ないし(5)について

(1) 被告主張の懲戒事由(1)については、原告は、湯布院町に在勤中、同前段のような発言をしたことはない。

同(2)については、原告は、被告代表者の中傷をしたことはなく、もともと宮本が、被告代表者と大竹の関係について疑問を持ったことから、原告に対して質問し、これに原告が答えたものに過ぎない。

同(3)については、原告は経理の責任者から入場料が足りないとの報告を受けたので、被告代表者に相談しただけである。

同(4)については、パイプオルガンの搬入の日が被告主張の日であることは原告に知らされていないし、消防の検査に立ち会う必要のないことは事前に確認してあった。また、被告主張のような大混乱の事実はなかった。

同(5)については、いずれも否認する。このうち、〈3〉については、観光総合事務所から、ある団体が湯布院町に来るのでその観光コースに由布院美術館を入れていいかという問い合わせがあったのに対し、その日はあいにく休館日であるが、一時的に開館することもできる旨申し出たところ、そこまでする必要はないと言われたものである。また、そのころ、宮本は住所地の北海道にいたので、同人が来客を受けるということはあり得ない。〈4〉については、装身具は高価なものではなく、そもそも被告代表者の許可の下に仕入れ、販売をしていたものである。また、〈6〉については、経理の引継ぎは、被告代表者が経理担当の坂井に命じたことである。

(2) 被告は、平成八年一二月一八日、それまで被告代表者が原告に対して抱いていた不満が誤解に基づくものであることが分かり(少なくとも、水に流す形となり)、原告を解雇せずに引き続き業務に就かせることにした。

したがって、同日以降の原告に懲戒解雇事由に該当する事実があったか否かのみが問題となるが、同日以降の原告にそのような事実はない。

(3) 被告は、予備的に普通解雇の主張をしているが、懲戒解雇は企業秩序違反に対する制裁罰として普通解雇とは制度上区別され、普通解雇に比し特別の不利益を労働者に与えるものであるから、懲戒解雇の意思表示はあくまで懲戒解雇として独自にその有効性を検討すべきで、懲戒解雇の意思表示が普通解雇の意思表示を包含するものとは言えない。

そして、本件解雇は懲戒解雇としてされたものであるから、本件解雇について普通解雇の効果を生ずることはない。

第三当裁判所の判断

一  まず、被告主張の懲戒解雇事由の有無について、検討する。

1  被告主張の懲戒事由(1)について

(一) 証拠(〈証拠略〉、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告に雇用される前にはイギリスで勤務した経験があること、その後、神戸市の実家に戻っていたが、阪神大震災後の神戸には適当な就職先がなく、東京で仕事をしたいとの希望を持ったので、都内に営業所を構え、英国企業との取引がある被告に雇用されたこと、ところが、原告は、平成八年九月、急に湯布院町への転勤を命ぜられ、その後、現地スタッフを採用するなどして、由布院美術館の開業準備の業務をほとんど一人で切り盛りすることを余儀なくされたこと、原告は、同美術館の開業後、引き続き館長代理を命ぜられたが、館長である宮本は北海道に居住し、たまにしか湯布院町を訪れないため、現地スタッフの監督などの仕事は原告に任されていたこと、原告は、湯布院町に在勤中、業務に関連して、ゲルダー氏(由布院美術館に隣接するウェディング用の教会施設の牧師として被告に雇用された英国人)、アストン氏(由布院美術館のインテリアデザインの担当者として来日した英国人)、裏女史(由布院アートネットの会を主宰する、湯布院町におけるこの方面の有力者)等と知り合い、これらの者と親しくなったことが認められ、右事実に証拠(〈証拠略〉)を合わせると、湯布院町に在勤中の原告が、ゲルダー氏、アストン氏、裏女史等に対して、早く湯布院町での勤務を終えて、ロンドン駐在になるか東京勤務に復帰したいといった趣旨の希望を述べたことを推認するに難くない。

しかし、原告が、業務に関連してではあるが、親しくなったこれらの者に対して、そのような希望を述べたからといって、前記のような原告の当時の状況からすれば、ある意味でもっともなことであって、同情を呼びこそすれ、原告の右行為をとらえて、被告の業務を妨げる行為とか職場の秩序を乱す行為に当たるということはできない。また、(証拠略)中、原告の言動によって被告の業務に非常な障害が生じたとする被告主張に沿う部分は、にわかに信用することができない。

(二) 以上のとおりであるから、被告主張の懲戒事由(1)を認めることはできず、前記(一)認定の事実をもってしては、就業規則四四条三号、四号に該当するものということはできない。

2  被告主張の懲戒事由(2)について

(一) 証拠(〈証拠略〉、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、(1) 原告が被告に採用された当時から、被告の従業員の間では、〈1〉 被告代表者と大竹とが、出張時や帰宅時を含めて四六時中行動を共にしている、被告の業務終了後の帰途大竹に話したことが、翌朝には既に被告代表者に伝わっている、被告が倉庫用として使用していた営業所裏のマンションの内部にはアンティークの家具で飾られた住居スペースが設けられていたが、被告代表者は、ここはある人と共同で借りているので、その人に言わないと鍵をもらえないというような、大竹との共同使用をほのめかす言い訳をしたことがある、などのことから、被告代表者と大竹が極めて親密な関係にあるとの認識が定着していたこと、〈2〉 原告は、被告の顧客から、被告代表者と大竹との関係を知っているかと聞かれたことがあるが、その態度から、右顧客は被告代表者と大竹とが男女関係にあることを確信しているものと受けとめられたこと、また、〈3〉 他の顧客から、原告は、被告代表者が顧客に対して阿部を夫として紹介せずに、「岡部治文」という偽名の名刺を配らせたことがあるとも聞いていたこと、(2) そのような中で、宮本が、原告に対し、〈1〉 被告が使っている印刷会社の社長が被告代表者と大竹とは男女関係にあると言っているが、どう思うか、〈2〉 湯布院町を訪れた際、被告代表者は、「寒い、寒い」と言って大竹に洋服を持って来てもらったことがあるが、大竹はどこから洋服を持って来たと思うか、〈3〉 被告代表者は、湯布院町からの帰途、翌日は那須の顧客の下に行くので東京の自宅に帰らないと言っていたのに、翌日被告に電話すると被告代表者が東京にいたことがあるが、どう思うか、などと言って、被告代表者と大竹とが男女関係にあると思うかどうかを執ようにたずねたので、原告は「私には分からないし、白とも黒とも言えない。」と答えたにとどまることが認められる。(証拠・人証略)及び被告代表者の供述中、右認定に反する部分は、前掲証拠に照らしていずれも採用することができず、他に右認定を左右する証拠はない。

右認定の事実によれば、原告は、宮本から、被告代表者と大竹とが(ママ)男女関係の存否についての原告の考えをたずねられたのに対し、明確に右事実を否定しない対応をしたことが認められるが、由布院美術館館長として原告の上司の地位にある宮本からの執ような問いかけに対し、受動的な応答をしたにとどまる本件の経過からすれば、原告の対応は、社会通念上、許容される範囲のものというべきであって、右対応をとらえて中傷行為ということはできず、これを業務を妨げる行為とか職場の秩序を乱す行為に当たるということもできない。なお、証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨によれば、被告代表者は平成九年一〇月三〇日阿部哲朗と協議離婚したところ、同人は、離婚の前後を通じて、被告代表者と大竹との男女関係の存在を確信し、離婚後も被告代表者に対して強い不信と憤りの感情を示していることが認められるが、このような事実があるからといって、右結論が左右されるものではない。

(二) 以上のとおりであるから、被告主張の懲戒事由(2)を認めることはできず、また、前記(二)認定の事実をもってしては、就業規則四四条三号に該当するものということはできない。

3  被告主張の懲戒事由(3)について

(一) 証拠(〈証拠略〉、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、由布院美術館の開業後しばらくして、経理担当の坂井から原告に対して、チケットの枚数に較べて代金額が不足しているとの報告があったので、原告が坂井と共に調査してみると、松井がチケットを取り扱った日のみ代金額の不足が生じていることが判明したこと、そこで、原告は、被告代表者と宮本に対し、坂井と共に右事実を報告したこと、このため、被告代表者と宮本は、松井が代金額の不足について責任があると考え、同人を辞めさせることを検討したことが認められる。

右認定の事実によれば、原告は、チケットの代金額の不足という事実に接して、被告代表者及び由布院美術館の館長である宮本に右事実を報告するという、館長代理としての立場から要求される当然の務めを果たしたものということができ、右行為を松井に対する中傷行為ということができないのはもとより、職場の規律を乱したものということもできない。

(二) 以上のとおりであるから、被告主張の懲戒事由(3)を認めることはできず、また、前記(二)認定の事実をもってしては、就業規則四四条三号に該当するものということはできない。

4  被告主張の懲戒事由(4)について

(一) 証拠(〈証拠略〉、原告本人、被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成八年九月上旬から同月中旬まで、由布院美術館の内装の仕上げのため来日したアストン氏らと行動を共にしたこと、原告は、この間の同月一二日ころ、英国滞在中の被告代表者に電話をして、関西空港にアストン氏を送り届けてから同月一九日までの数日間、有給休暇を取って神戸の自宅に帰省することを申し出て、その了解を得ていたこと、その際、原告は、近々、由布院美術館にパイプオルガンが搬入される予定があること自体は知っていたが、被告の輸入担当者からその日時の連絡を受けていなかったこと、消防の検査については、事前に原告が立ち会う必要のないことを現地の関係者に確認済みであったこと、同月一九日由布院美術館にパイプオルガンが到着し、施工業者である前田建設の関係者が搬入作業をし、当日消防の検査も実施されたことが認められる。(証拠・人証略)、被告代表者の供述中、右認定に反する部分は(証拠略)及び原告本人の供述に照らしていずれも信用することができず、他に右認定を左右する証拠はない。

右認定の事実によれば、パイプオルガンの搬入の点に関しては、近々、その予定があることを知っていたのであるから、有給休暇の取得に当たって、右日時を被告の輸入担当者に確認することが望ましかったということができるが、あらかじめ、被告代表者に申し出て有給休暇の取得の了解を得ていることからすれば、原告が、右搬入の当日湯布院町にいなかったからといって、原告が無断で神戸市の実家に帰ったとか職場を放棄したとかの被告の主張は当たらないものというべきである。

(二) 以上のとおりであるから、被告主張の懲戒事由(4)を認めることはできず、これを前提とする就業規則四四条四号、五号該当の被告主張は、採用することができない。

5  被告主張の懲戒事由(5)について

(一) 被告主張の懲戒事由(5)の〈1〉、〈2〉及び〈7〉関係

これらの点に関しては、(証拠・人証略)、被告代表者の供述中、被告主張の懲戒事由(5)の〈1〉、〈2〉及び〈7〉に沿う部分は、いずれも、漠然とした内容のものであるか又は一方的に原告を非難するものであって、(証拠略)及び原告本人の供述に照らして信用するに由なく、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。なお、同〈1〉で被告主張の電話の件については、証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨によれば、原告が由布院美術館から私用電話をしたものについては、処理を失念した一例を除いて、すべて原告において料金を支払済みであること、由布院美術館からの国際電話の大部分は、平成八年一〇月から一二月まで被告の業務のため現地に滞在していた外国人が使用したもので、そのほかは、原告が被告の業務として小物の輸入のために使用したものであることが認められる。

(二) 被告主張の懲戒事由〈3〉関係

証拠(原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、現地の観光総合事務所から原告に対し、ある団体が湯布院町に来るのでその観光コースに由布院美術館を入れていいかという問い合わせがあったのに対し、原告がその日はあいにく休館日であるが、一時的に開館することもできる旨申し出たところ、そこまでする必要はないとして了解が得られたこと、館長である宮本は、北海道に居住し、たまにしか湯布院町を訪れないため、原告が由布院美術館への応対をするに当たり、いちいち宮本の許可を受けないで処理することを許されていたことが認められる。

(三) 被告主張の懲戒事由〈4〉関係

証拠(〈証拠略〉、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告代表者の許可を受けて、国内の友人から由布院美術館の売店用に装身具を仕入れ、これを館内の売店で販売したことが認められるところ、右装身具はさほど高価なものでなかったことが認められる。そして、原告が、これら装身具について英国製という表示をしたとする被告主張を認めるに足りる的確な証拠はない。

(四) 被告主張の懲戒事由〈6〉関係

証拠(〈証拠略〉、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、経理の引継ぎは、経理担当の坂井が被告から命じられたものであって、原告に対して求められたものではないことが認められる。

(五) 以上のとおりであるから、被告主張の懲戒事由(5)を認めることはできず、これを前提とする就業規則四四条五号、一二号該当の被告主張は、採用することができない。

6  以上によれば、被告主張の懲戒解雇事由は、いずれも認めることができず、これを前提とする就業規則四四条五号、一二号該当の被告主張は、採用することができない。

二  被告は、予備的に、被告主張の懲戒事由(1)ないし(5)の事実が就業規則三七条三号も(ママ)該当するとし、本件解雇は就業規則三七条に基づく普通解雇として有効である旨主張するが、前記1判示のとおり、被告主張の懲戒事由(1)ないし(5)の事実そのものを認めることができないのであるから、本件解雇に普通解雇の意思表示が包まれるか否かの点を検討するまでもなく、右主張は失当といわなければならない。

三  以上によれば、本件解雇は無効というほかないから、本件解雇後である平成九年一月分以降の六か月分の給与の支払を求める原告の請求は理由があるところ、原告は、本件解雇前、被告から月額二七万円の給与の支払を受けていたから、右六か月分の給与合計額は一六二万円と算定される。

四  よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 福岡右武)

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